体育とスポーツの日記

                      石田智巳が体育・教育,そして運動文化論と運動文化実践(主にランニング)について書いています。

わかっちゃいるけどやめられね。

3つの支部ニュースの記事 言葉の力

こんにちは。石田智巳です。

 

今日は,体育同志会の滋賀・京都・大阪の関西新三都物語です。

というのは冗談で,滋賀支部ニュース,京都支部ニュース,大阪支部ニュースに描かれていた共通の話を紹介します。

若い人の感性です。

では,どうぞ。

 

まずは滋賀支部ニュース「はぐくみ」3月号から。

記事を書いているのは,小口さんだ。

小口さんは,昨年度初任で初担任をしたが,クラスづくりで大変な思いをしたという。

そこで,以下の本を参考にして実践して見たそうだ。

『菊池省三流 奇跡の学級づくり 崩壊学級を「言葉の力」で立て直す』(○○出版,年号はわからない)。

要するに「言葉の力」なのだ。

小口さんはそれを参考に,自分なりにアレンジして実践したようだ。

 

クラスメートのその日よかったところ,すごいと思ったところを探すというものだ。

それを生徒が自分がターゲットにする子を決めて(周りにわからないように紙に書いて渡すそうだ),ターゲットとなった子を1日の学校生活を通して観察し,よかったところを紙に書いて帰りに提出。

後日,学級通信でみんなに返していくというものだ。

 

こういう取り組みは,僕も教職の授業で必ず紹介する。

「一人一人を徹底的に大切にする」というどこかの市の教育理念はまぶしい。

が,まぶしく放つ光の明るさが,かえって足もとの暗さを隠してしまう。

せめて,徹底的に大切にするための方法論を語ってみてほしいものだ。

 

次に京都支部ニュース「かもがわ」3月号。

と思って確認のために3月号を見ると,載っていない。

あれっ?2月号か?

と思って見るもない。

いやいや,つい最近読んだと思ったのに。

もしかして,と思って見たら,なんと4月号の原稿だった。

まだ出ていない田中さんの原稿だ。

これは載せるわけにはいかないが,とりあえず学級づくりの方法を教わってきたという。

内容はやや違うのですが,同じようなことが書かれていた。

 

そして,大阪支部ニュース3月号。

これはすごい。

ハチ日記㉝の話

実践記録ではなく,横で見たことを書いたという意味では,エスノグラフィーだ。

「若い教員たちの挑戦」(その4)

その4だから,その1からあるので紹介したい。

 

児童養護施設から通ってくるAちゃんは,母親から愛情を受けることなく育ってきた。

そのAちゃんは,学校にきてもなかなかうまくいかないことが多い。

ときどき心の中で何かが引っかかって,突然固まり,ぐずり,暴れることがある。

行事があると,規律が求められ,彼女の緊張はピークに達する。

「感情のコントロールに苦しむ彼女は,自分の何にイライラしているのかさえ混乱している」。

「指導が限界に達し,彼女は緊急一時保護措置を受け,(児童養護)施設から別の場所に移送された」。

ここまでが,その1からその2までの話。

さあAちゃんはどうなってしまうのか・・・・(さらに続く)。

 

その3では,Aちゃんが修学旅行に行くことに。

充実した二泊三日だったようだ。

しかし,終わると彼女は,一時保護先の施設に帰らなければならない。

身体が動かない。

 

そのとき,Aちゃんは,ホワイトボードに近づいて,クラスメートに置き手紙をする。

「月曜日はみんな元気で頑張れ!元気に明るく過ごすんだぞ!楽しいクラスだからみんないけるぞ!」

自分に言い聞かせるようにメッセージを残したAちゃんは,それまでの反抗がうそのように車に乗り込み,手を振りながら学校を後にした。

これがその3。(もう少し続く)

 

ということで,3月号がいいのだ。

この一件があってから,担任(これが若い先生だ)は「いけるノート!」を考案する。

ある日Aちゃんがバスから泣きながら下りてきた日があった。

その日の「いけるノート!」の内容。

 

「・朝,バスの中で寝ていたら誰かに頭を叩かれた。

・何もしていないのに,なんであたまをたたかれないかんねん。

できたこと

・(でも,)一人でくつ箱まで歩いてこれた!

・自分から落ち着いて説明できた

・自分で教室まで入ってこれた!スイッチをいれた!

・朝の会から参加!気持ちを切り替えることができた!

 

・叩かれることがこれから何回もあれば先生に報告してください(←これは担任から)

 

バスに乗れたよ。」

 

最後の「バスに乗れたよ」もふくめて,できたことには全部花丸がついている。

いいね。

支部ニュースもPDFだとカラーで,花丸が赤い。

 

「どうです。若い先生たちの感性,素敵でしょ!」でハチ日記はおわる。

「さらに続く」はない。

 

さてさて。

この話の何が素敵なのだろうか?

この「いけるノート」のことだろうか。

これは現場の先生たちには,実感を伴ってよくわかる話なのかもしれない。

 

僕が思ったのは,まさに滋賀の小口さんの読んだ本にある「言葉の力」なのだ。

Aちゃんの転機が,ホワイトボードに書いたことにあるというのが,この話で重要な部分。

これは,「自分に言い聞かせるように」というところがおそらくミソで,そうやって書いたことで本当に自分が「いける」と思えたのだろう。

Aちゃんになかったのは,感情を表す言葉だった。

感情をコントロールする前に,感情を表す言葉を持つ必要があるのだ。

 

そして,若い先生の感性が優れていたのは,「いけるノート!」なのだが,なぜ優れているのかと僕が思ったのは,以下の通り。

 

最初の中黒(・)の二つは,嫌なことをされて,嫌な思いをしている自分の物語(ナラティヴ)。

それが,「できたこと」の欄を見ると,自分が主語で自分がいけてる物語(ナラティヴ)になっている。

 

以前,抑圧的,支配的なドミナントなストーリーに対抗する,オールターナティヴなストーリーを立ち上げることで,セラピーやケアがなされると書いた。

そのストーリーは自分で立ち上げられるように,治療者は手助けする。

このAちゃんの場合は,ドミナントなストーリーとは違うけど,自分の生きづらさをさらけ出すようなストーリーが前段にあって,後段は「自分がヒーローの物語」を立ち上げさせている。

この若い先生は,ナラティブ・アプローチを知っているのか,知らないのかはわからないが。

 

「男子が掃除をさぼっていていやでした」,「○○が変なあだ名で呼ぶのでやめてほしい」という帰りの会のオールターナティヴは,「いけてる自分の物語を自分で立てられるようにする」ことだと思う。

しかし,それは恥ずかしいことなので,他人が自分のいいところを語ってくれて,それをみんなが承認することで,他人が自分について語るオールターナティヴな物語となる。

 

こういう実践は,結構あると思うので,また紹介したいです。

若い先生には,自分の実践がいけているという物語(過信,慢心,傲慢ではない)を立ててほしいです。

ベテランの先生は,若い先生がそういう気持ちになれるようにしてあげてほしいところです。

まずは,「隗よりはじめよ」ですが。

 

 

 

 

 

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