教職ゼミの授業2014年後期-愛国と英語についてⅡ
こんにちは。石田智巳です。
先日は,「愛国と英語についてⅠ」として,主に愛国心教育について書きました。
このことと,同じ日の授業で,小学校英語に関する学生の報告がたまたまセットになって出てきたので,そのことについて書きます。
では,どうぞ。
愛国とは直接関係ないかもしれないが,10月31日の産経新聞のネット記事に,「『生まれ変わるなら日本』8割超、20代男性が急増 国民性調査」という記事が載っていた。
なるほど,8割の人が日本がいいというわけだ。
僕も日本がいいかな。
「ワーオ」とか,陽気にやっているラテン系の自分が想像できないし,したくない。
5年前の調査では,全体では77%が「日本に」と回答をしたが,今回は83%に上昇。
特筆すべきは,20代男性が前回の54%から75%に急増していることだという。
いいことだと思う。
ただ,その理由がいただけない。
「専門家は、平成23年の東日本大震災で日本人の秩序ある行動が海外から称賛されたことなどが影響したのではと分析しており、若者たちが自信を持ち始めている姿がうかがえる」。
だって,自分たちがいいと思うと云うよりも,人がいいと評価したから日本がいいといっているわけでしょ。
そういうものなのかもしれないが。
どうですか?産経新聞さん。
さて,前期の授業では,小学校での英語教育について取り上げた。
やり方は,まず班を5~6人のグループに分ける。
そして,小学校英語が必修になるという新聞記事を渡す。
そして,それを読ませて,小学校英語が取り入れられる理由を読み取り,あなた自身が賛成か反対かで意見を述べあう。
次に,班でこちらが示した内容を分担して,次週までに調べてくることにする。
調べてくる内容とは以下の通り。
1学習指導要領における英語教育の歴史
3セミリンガル問題(会話中心の陥穽)
4ALT問題
5教育におけるポジティブリストの議論
6サンフランシスコ体制(内田樹ブログ,2012.4.6「大学における教育-教養とキャリア」)
7賛成派(体制派)の見解
これを,一人2つ,1つのトピックを二人で調べてきて,それぞれ伝えあう。
そして,自分たちの班では小学校英語をどのように進めるとよいかを考える。
そして,賛成派も反対派もいたが,やることになった以上は,慎重に進めることが確認された。
やれば上手くいくというものではないし,教師にも子どもにも負担がかかるものだという認識を持つ必要があるのだ。
それで,後期は中等の英語免許取得を目指す学生が,「小学校英語教育のカリキュラムと教員養成」と題した研究の中間報告を行った。
報告は先行研究や調査結果などから,「カリキュラムの改善と教員養成に求められるものは何か」を探るということであった。
TOEFLの世界ランキングでは,163位のガンビアが最低で,日本は137位。
そして韓国が70位で,中国が102位。
日本は,アジアのライバル国より劣っている。
危機的状況だ。
安倍さんの指揮する教育再生会議では,「グローバル化に対応」として,英語学習の早期化,時間増,教科化,専任教員配置などを考えているという。
今の指導要領は,コミュニケーション能力が求められている。
日本の小学校英語の課題は,①教員養成,②カリキュラム整備,③中等英語教育との連携の3つがあるそうだ。
そして,よその国のカリキュラムを調べたという。
日本では,週に1コマだが,中国は4コマ,韓国は2~3コマ,導入もあちらの方が早い。
日本の小学校教員へのアンケートでは,外国語(2010年当時)を指導することに自身があると答えた教員は32%にすぎない。
そこから,「現時点での」と断りを入れながら解決策を示す。
①教員研修の質・量の向上 →時間数を増やす,留学制度
②ALTの活用 →免許取得者を優遇
う~ん。
前期にやったことはどうなった?
フロアからは,前期のことを念頭に置いた質問や意見が出された。
僕もいろいろ云いたいことがあるが,冒頭の生まれ変わるなら日本がいいかどうかと同じで,「諸外国と比較して日本は低く,危機的状況」というのも引っかかる。
中国や韓国のTOEFLの順位の比較というのも気になる。
留学生の多くはグリーンカードの取得を目指していると聞くが,これは外国に脱出するために他国語を学ぶという意識が強くあるような気がする。
この国にいても埒があかないから外国へ。
それって愛国心は?
いろいろ気になるが,彼らはやはり「グローバル化に対応しなければならない」という。
そのときは意見を云うのを控えたが,ここで云っておこう。
教育再生会議では,「グローバルに活躍する人材を年10万人養成」という謳い文句を掲げている。
かつて学力向上の観点から,スーパーイングリッシュハイスクールを作ったりした。
その後,大学でG30(Gはグローバル)を選んだし,今うちの大学(2つ)もスーパーグローバルなんとかという事業があたったようだ。
でもね,10万人のグローバルに活躍する人って,全体で見れば10分の1なんだよね。
そこで重点的に予算を配分する学校を作る。
考えてみればわかるけど,うちの大学の学生もできは様々だし,みんながグローバルな視点を持っているわけではない。
グローバルの最先端で活躍する学生は,うちのなかでも1割いるかどうかぐらいなんじゃないかと思うけど。
グローバル化に対応というのは,世界で活躍するという意味にとられやすいけど,そんな夢みたいな話はそうそうない。
この辺は,内田樹さんの『街場の憂国論』とかを読むと,なるほどと思うことが書かれている。
昨日も,日本の建築技術のすごさを海外から学びに来るという番組があったけど,優れた技術を持っていれば,向こうが通訳連れてくるよね。
大工が英語でタフなネゴシエーションをやることはない。
むしろ,事態は逆で,安く作れる外国に工場を作って,安い賃金で働ける外国人を多く雇い,そのなかから,あるいはそれ以外から日本に働きに来る優秀な労働者を受け入れていくという意味でしょ。
日本だけに閉じたグローバル化というのは,自家撞着なわけだから。
その人たちの賃金を,日本人よりも安くするわけにもいかないから,日本人の賃金をあちらにあわせて下げることになる。
文句を言ったら,「雇いません」となる。
だから,グローバルな企業は,「換えはいくらでもいる」式に雇う人を選ぶことができて,雇われる人は非対称な関係になる。
つまり,グローバル化とは,1~2割のエリートが活躍する世界と,同時に存在する5割ぐらいのそれなり層と,残りの何割かの諸外国の労働者と安い賃金で職を争う層に分けるということだ。
上だけを見ずに,その全体的な現実を直視しないといけない。
そして,英語でネゴシエーションできる層は,別に日本企業で働く必要はないんだし,ノーベル賞の中村さんではないけど,日本人であることもやめて,日本に文句を云うようになる。
「日本は○○がダメだよね」とか。
こうして,別の国に愛国心を持つ人を育てることになる。
とここまで書いて,今日(11月2日)の毎日新聞を見ていたら,元世界銀行の副総裁だった西水美恵子さんという方が,「時代の風」にそんなことを書いていた。
まさに経済界が外国人労働者の受け入れを望んでいることに対してだ。
移民大国アメリカの移民局では,パワハラが常習だという。
「米国市民から仕事を奪うやつが生意気を言うな!」ということだ。
グローバル化は決していいことばかりではない。
風習や道徳の違う人たちと住まなくてはならないし,それにより日本人が排他的になる。
学生にはそんなことは云えないし,このブログのことも黙っておこう。