体育とスポーツの日記

                      石田智巳が体育・教育,そして運動文化論と運動文化実践(主にランニング)について書いています。

わかっちゃいるけどやめられね。

『たのしい体育・スポーツ』 7.8月合併号(№293) 堀江なつ子実践を読む

こんにちは。石田智巳です。

 

今日は,『たのスポ』7.8月合併号を読んでいきます。

8本ある「実践のひろば」の最初にきているのが,山梨の堀江さんの実践です。

今日はその堀江さんのバスケットボールの実践の記録,「最重要空間を意識した5人のゲーム」です。

では,どうぞ。

 

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堀江さんは,1月の体育同志会創立60周年記念関東集会で,柔道と剣道の実践のさわりというかダイジェストを報告してくれた。

とても面白そうな内容であった。

みのお大会では,時間があえば聞きに行きたい内容だった。

 

その堀江さんには,バスケットボール分科会ではじめてお会いした。

奈良大会だったかな?

ちゃんと覚えていないけど,そうだとすれば10年前になる。

とても意欲的で,前向きで,明るい。

 

さて,この実践記録は,あらかじめいうと本当に惜しい。

実践記録だけど2頁しかない。

そして,特集が「データの取り方・生かし方」だから,データに関する内容が中心になる。

そして,いろいろ知りたいことはほとんど書いていない。

でも,読めば何となくわかるようにはなっている。

 

たとえば,グループ学習については書かれていない。

また,データを見た子どもたちのやりとりも書かれていない。

ただ,3人のゲームと5人のゲームをやって,どういうデータが取りたかったのか=何を重点的な目標にしたのかが書かれている。

 

バスケットボールでよく取るデータは,堀江さんもとられている心電図というデータだ。

これは,左側に縦に人の名前が書かれていて,パスした人から渡されたひとを直線でつないでいく。

ドリブルやシュート成功,シュートミス,ボールデッドなども書かれる。

このボールの軌跡を紙に表すと心電図のようだから,そういう名前になった。

心電図は,3人のゲームぐらいだと有効だと思うが,5人になると結構大変になる。

 

だから,僕は5人のゲームのときは,ゼッケン番号を横に書いていくようにする。

①→②→③S× とか。

①が②へパス,②が③へパスしてシュート失敗。

 

このときにスローインの人は起点となるのだが,書かないようにする。

それも1回とカウントすると,触球数の少ない子にスローインさせるという知恵を出すグループが出てくるから。

 

そう,この触球数調査は,まずは誰がボールに触っているのか,あるいは触っていないのは誰かがわかる。

同じく,誰がシュートを打ったのか,あるいは打たなかったのは誰かがわかる。

毎回のデータを蓄積していけば,ここまででシュートを打っていないのは誰かとか,成功していないのは誰かがわかるのだ。

 

そして,サッカーなんかでは,ワンプレーあたりのパスの回数が増えてくるとゲームの質が上がったとか評価される。

しかし,そのことをいうと,意味のないパスが増えるので要注意なのだ。

 

あと,この心電図をもとにして,パスのつながりの実態を見ることもできる。

やり方は,5人だったら,5角形の頂点にくるように5人の名前を書く。

そして,誰から誰へのパスはよく通って,誰と誰はパスがないというようなことを見ていく。

そして,その原因を探る。

よくいるのは,パスを受けるのが多い子は,シュートも多かったりする。

いいところにいて,受けてシュートをするから。

 

それで,堀江さんのこのデータには,彼女なりの工夫がある。

それは,A空間からB空間に通ったパスには矢印をつけるという工夫だ。

B空間とは最もシュートが入りやすいゴール付近の空間。

A空間は,その周りのハーフコートの空間。

ここがこの授業のねらいであり,ねらい通りにいっているかどうかを表すデータを取ろうとしているのだ。

こういうところが素晴らしいね。

 

さらに,本当はほしいのだが,心電図を用いたデータでは得られない情報は,別に点検者を設けるという。

それが,B空間に居残りせずに出たり入ったりすることだ。

特に球技の苦手な子は,ボールを見ないで,ゴールまで行くことが難しい。

意欲があればあるほど,ボールの傍にいてもらおうとするが,意味のないパスになりがちで却ってボールがもらえない。

これは,一種のつまずき。

だから,ゴール前に行くことを指導する。

 

しかし,ゴールへ行く指導をすると,そこでつっ立っているから,ディフェンスも引いて守るために,攻撃がしにくくなる。

これもつまずき。

だから,出たり入ったりするのだ。

3対3の場合,B空間に入って,ボールがもらえなかったら直ぐに出て,反対サイドの攻撃のチャレンジとする。

それでうまくいかなければ,またさっきのサイドでチャレンジをする。

うまくいかなくてB空間を出るときに,ボールを出す人と代わることができるとなおいい。

 

さて,堀江さんの8頁の図は,バスケットのコートを3つの空間に区切っている。

ところで,Aが最重要空間で,Bが周りの空間の方が断然いいと思った人がいる。

実はそれは僕なのだ。

 

なぜかというと,そうすれば,オールコートゲームを考えたときに,C空間からB空間に運ぶという課題,そしてB空間からAの最重要空間にボールを運ぶという課題とに分けることができて,シンプルだ。

かつて体育同志会は,定型遅攻といって,ハーフコートで行うことが多かった。

その方が,シュートを打つチャンスが増えるから。

それでAとBの2つだけでよかったのだ。

 

しかし,今では,ボール運びの局面も学ばせたい内容になっている。

そのことをどっかの大会の基調提案に書いたときに気づいて,仕方なくA→Bとなっていたので,もう一つの空間をZと命名したのだ。

ZAB(ザブ!)。

昔あった洗濯洗剤みたいだ。

 

いらぬ話が長すぎた。

で,堀江さんの授業のいいところは,オフェンスはB空間をねらうのだが(これは普通),B空間に居残るとディフェンスも居着いてしまうので,空間をあけて,また入ることを指導している点だ。

それと,ディフェンスもキチンと指導している。

体育同志会は,シュートを決める喜びを優先してきたため,かつてはディフェンスをきっちり指導してこなかった。

 

これは僕の大学の実践でも必ずやっていたが,ボールをもらいたかったらVカットでもらう。

Vでも,Lでも,Iでもいい。

ボールを持っていないOFは、一度ゴール下にいくつもりで相手ディフェンスのところへ行き,相手ディフェンスにからだを預けるようにして,戻ってパスをもらう。

これを成功させるためには,相手ディフェンスがディフェンスの原則に則った内線の動きをしてくれる必要がある。

 

ここら辺をキチンとおさえてある。

これがおさえられているから,スクリーンをかけることもできる。

スクリーンはレベルが高いよ。

普通にしていては出てこない。

出たとしても,それがスクリーンかどうかは本人たちもわからないから再現性に乏しい。

 

惜しいのは,堀江さんが適用した5対5のルールがよくわからないことだ。

普通のオールコートなのか,スタートはZからであとはハーフのような形なのか。

3人と3人のグループがどうやって役割分担しているのかなど。

 

でも,これは僕の実践に近いような気がするのは気のせいだろうか。

僕もこれは苦肉の策なのだが,ボール運びを一人と右サイド二人,左サイド二人にして,その二人でスクリーンとハイポストのプレーを中心に作戦をつくらせていた(この陣形は実は問題があって,スティールされたときに,ガードが薄くなるのだ)。

 

そんな話をしたことがあると思う。

もちろん,僕の実践は大学生相手。

それをそのまま小学生や中学生にさせることはできないと思うが,そんなことをやっているような気がする。

違うかな?

 

最後に「授業を終えて」が書かれているが,ここにうまくいかなかったことと,その原因,そして次にやるには,が書かれている。

「そういう生徒(なかなかボールがもらえない生徒)をチームで支えていくためには,<役割分担>ではなく,動きの中で支える<作戦>が必要だったのだろうと今強く思います」。

 

ここは悩ましいところだ。

みんなが原則的な動きを理解して,B空間を誰もが支配できればいいのだが,やはり固有名のプレーというか,作戦で決めるということも必要になるだろう。

「○○さんが点を取るプレー」とか。

だから,原則をもとに作戦を考えさせるというのがいいのだと思う。

 

いい実践家が育っていると思いました。

だから,もう少し丁寧な報告が聞いてみたい実践でした。

 

 

 

 

 

 

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