松岡正剛著『誰も知らない世界と日本のまちがい』を読む
こんにちは。石田智巳です。
今日は表題の本を取り上げてみたいと思います。
この本は,今なぜ新自由主義が席巻しているのかという話が書かれています。
歴史を遡っていきます。
でも,450頁もあるので,ざっと要約というか,僕が読んで自分の物語に採用された内容を書くことになります。
先日,教育実習の訪問指導で公民の授業を見た話を書いて,その後,毎日新聞の高橋源一郎さんの民主主義(ルソーの話)のことを取り上げました。
本当はその時に,僕が勝手に師と仰ぐ松岡正剛先生の本を取り上げてみようと思っていました。
しかし,結局,高橋さんの話を紹介しているうちに終わってしまいました。
本当にいい話でした(民主主義の方法とは )。
なので,今日はこの本です。
では,どうぞ。
松岡セイゴオ先生のことは,このブログでも取り上げたことがあるが,この人はネット上で「千夜千冊」というサイトを持っていた。
毎日のように本の批評をする。
ところが,この批評は1冊の本だけを取り上げるのではなく,その著者の本や考え方をマッピングをして,そこから取り上げた本と,周りの本との関係を論じたり,他の著者との関係なんかも論じたりする。
実は,中村敏雄さんの『オフサイドはなぜ反則か』も取り上げられている。
しかも,内容は,文学,哲学,宗教,物理学,なんでもある。
要するに博覧強記なのだ。
そのセイゴオ先生には,前にも紹介したが,『情報の歴史』という本がある。
これは,7000万年前の恐竜が絶滅してほ乳類が台頭してきてから,1989年,つまり平成元年までの歴史がモーラされた年表である。
これが面白いのは,下の写真に見るように,ある時代に起こったことが,宗教,科学,芸術,文化というように並べてあることだ。
僕らは,東洋史,西洋史というように習うから,その横の関係を見るのが難しい。
しかし,その関係をつけようというのだ。
文学も,芸術も,歴史的な事件も等価値に並ぶ。
そして,この写真の頁を見ると何となくわかることがある。
上の写真は,1500年から1524年までの25年の間に,世界で起こったことが書かれている。
左の方には,この25年を特徴付けるような記述がある。
「ドイツのゴシック体がイタリアのローマン体に代わる。
それがイタリアにルネッサンスをもたらした。
方言の統一ができないドイツでは,ルターの自国語による聖書訳が,最後の焦燥をあらわしていた」。
一番左には,大航海時代の欄があって,下の方に「マゼラン」の名前がある。
大航海時代は,前のページにもあって,1479年にはスペイン・ポルトガルがアルカソヴァス条約を締結とある。
その後,いろいろあるが,1492年にはコロンブスの航海がある。
スペインやポルトガルがリードしていた。
その前のページまでは,印刷術と航海術という欄があり,船の改良,羅針盤,地図などが整備されていることがわかる。
それで,上の写真に戻ると,マゼラン世界周航,ルターの宗教改革,トマス・モア(『ユートピア』で有名)がある。
ルネッサンスをどう見るのかはわからないが,これだけ並べると,次に来る出来事がわかる。
次じゃないけど。
要するに,プロテスタントが生まれて,それがカトリックから迫害を受けて,「今ここ」とは違うどこかにユートピアがあって,船に乗ってこの国から脱出するという物語が来ると云うことだ。
セイゴオ先生の歴史の書き方は非常にわかりやすくて,まさに歴史とは,今ここに向かって一直線に進んできているような物語としてまとめられる。
だから,あるときに事件が起きたら,上に書いたように,その前にはそれが起きるであろう事件が並べられ,その後にもその事件によって引き起こされた事件が書かれる。
あたかも因果関係が一直線に並んでいるように書かれているのだ。
フーコーの系譜学から見れば,批判の対象になる歴史的な記述であるが,僕たちにはその方がわかりやすい。
で,なんでこのページの写真を載せたのかというと,セイゴオ先生は,世界が今のようになったのを説明するのは,このページの左の上の方にあるヘンリー8世という人が関わっていると見ているからだ。
ここからは一気に書くのだが,以下の通り。
イギリスのヘンリー8世は,宗教革命が起こっても,イギリスではプロテスタントを認めなかった。
それによって,ローマ法王から何とかの称号を受ける。
しかし,そのときにこのヘンリー8世は離婚をして,再婚をするためにローマにうかがいをたてるが,なかなか認めてもらえない。
そのため,カトリックとの関係をなしにして,勝手にイギリス国教会を作ってしまった。
自分のことは自分で決めるのだ。
これがカトリックの普遍主義に対するイギリスの自国主義の起こり。
言葉を換えれば,ブリティッシュ・ナショナリズムである。
これが重要。
次のメアリー・チューダーは,プロテスタントを火あぶりにして,ブラッディ・メアリーというカクテルになるほど有名になった。
その後,エリザベス1世が即位し,スペインの無敵艦隊を破る。その後,イギリスでは世界初の株式会社東インド会社を設立した。
この頃はまさに,カトリックの国であるスペインと世界の海を争っていて,世界各地を植民地にしていく争いをしていたわけだ。
その後,プロテスタント(イギリスではピューリタン)はエクソダス(脱出)をして,その一部が新大陸でアメリカに渡る。
WASPは,その時の名残なのだ。
その後,フランシスコ・ザビエルやルイス・フロイスらイエスズ会の宣教師たちが日本に来るが,それは,プロテスタントの布教に先回りして,カトリックの布教にきたということだ。
前に,イオンの映画館でエクソダスという映画をやっていたが,それとの関係はわからない。
のこったピューリタンはクロムウェルに率いられて,ピューリタン革命を起こす。
それをフランスで見ていたのが,ホッブスである。
ホッブスは,『リヴァイアサン』で国家の有りようについて説く。
それを引き継いだルソーの「社会契約論」が出てくる。
このルソーの考え方,つまり国民と国家の関係のあり方が,フランス革命を誘発する。
その後,フランスではナポレオンが近代国家制度を作り(中央銀行,インフラ,徴兵制の軍隊),欧州諸国を開放する。
既に産業革命ははじまっており,大陸封鎖を経て,それぞれの国が自国での生産力を上げていく。
そして,ドイツを中心に30年戦争が起こるが,その終わりの1648年に講和会議がウェストファリアで開かれ,以降,ヨーロッパはウェストファリア体制になる。
愛知の丸山さんが,ドイツにいっていた,あの「ヴェストファーレン州」だ。
この体制が今の国民国家の基礎となったとされている。
そして,列強支配が強められていく。
時代はかなりとぶが,アメリカは1849年のゴールドラッシュの西漸が西海岸まで達すると,その後,ハワイ,グアム,フィリピンを支配する。
そしてペリーが日本へ来るのが1853年。
その直前には,イギリスがアヘン戦争で中国を支配。
列強支配の魔の手は伸びて日本は開国へ。
黒船が来た年はクリミア戦争で,ヨーロッパ,ロシア,トルコ(オスマン)が争う。まさに,群雄割拠。
第一次大戦で敗れたドイツは,国家社会主義ドイツ労働者党のヒトラーが登場。
世界恐慌になり,国土と資源の少ない日本,ドイツ,イタリアは状況打破のために,侵略戦争を仕掛け,第二次大戦へ。
戦後は,東西冷戦と新植民地主義によるパクス・アメリカーナを迎える。
1970年代になると,ドルショックとオイルショックによって,産業構造が転換する。ここら辺で,サッチャリズムが登場し,イギリスの「ゆりかごから墓場まで」の福祉政策は終わりを告げ,新自由主義がはじまる。
アメリカは,レーガノミクス。
「奥様は魔女」のような裕福な時代から,二極格差へ。
日本では,中曽根さんが新自由主義的な政策に転換して,経済が潤うも,バブルが崩壊。
アメリカの要求をのみすぎて失われた10年。金融資本主義とグローバリゼーションに乗り切れず。
世界の正義はアメリカの正義に。
結局,大国のスタンダードが世界のスタンダードに。
そして,勝ち組,負け組へ。
途中,1900年ぐらいに登場するフッサール,フロイト,あるいはマーラーなどの関係や,カフカやカミュのような文学者たちの話も面白いのだが,うまく物語に収めることができなかった。
ということをセイゴオ先生は書いています。
ぜひ一読をお勧めしますが,たいてい人に勧められた本は読んでも,「なにこれ?」となる予感がするので,どこかで借りて読んでみてください。
なお,今の新自由主義は,デイヴィッド・ハーヴェイによると,単に小さな政府の実現のためではなく,エリートの復権のためには,国家総動員も辞さないということが裏にあるようです。