体育とスポーツの日記

                      石田智巳が体育・教育,そして運動文化論と運動文化実践(主にランニング)について書いています。

わかっちゃいるけどやめられね。

ワクワクどきどき体験のこと

こんにちは。石田智巳です。

 

今日は,子どものワクワクどきどき体験について書きます。

 

これは,香川で行われた教研集会の全体会での,小森陽一さんと松本春野さんの対談,そして,次の日に行われた分科会での,野井真吾先生の話が丁度つながったので,書き留めておこうと思いました。

書いているうちに,別の話もつながってきたのであわせておきました。

では,どうぞ。

 

8月16日の教研集会の全体会で,小森さんが,自分の子どもを保育園に迎えにいったときに,他の子どもも含めて読み聞かせをしたと云う話をした。

絵本のあらすじは,わかりやすく道徳的な内容が多いので,大人はついストーリー性を重視して読む。

しかし,子どもはそもそもストーリーなんてわかっちゃいない。

100万回生きたねこ』なんて,「100万回」の意味がもうわからない。

ねこが何で立っているのかもわからない。

 

子どもは絵を見ている。

大人は絵を見ずに字を読んでいる。

本の読み聞かせを読んでいる大人と,聞いている子どもはすれ違っている。

聞かずにゴソゴソ,チョロチョロしている子どももいる。

それも含めて参加。

 

松本さんは次のようにいった。

絵本は,親子のすれ違いのメディア。

絵本は,他者を発見するメディア。

 

子どもは基本的に他動なのだ。

ADHDぎみであること。

それが一定の時間をかけて社会化していく。

これは,野井さんの言い方だが,先の話に通じるところがある。

 

最近,朝の授業が始まる前に読書タイムを設けている学校が多いのは,落ち着いた環境で集中させようとしているからだ。

難しいことをやろうとしているのではない。

読む本も何でもいい。

それで効果も見られるようだ。

 

しかし,野井さんは違う角度から捉える。

じっとしていられないから歩き回るだとか,集中力が続かないとか,落ち着かない子どもが増えていると云われる。

野井さんは,それを前頭葉の未発達のためだという。

 

前頭葉(前頭前野)を興奮させることで,逆に落ち着かせることができるというのだ。

そのためには,朝,思いっきり遊ぶ,走り回るなどのワクワクどきどき体験が有効だという。

実際に,相模原の山梨に近い学校でやってみたところ,それで成果があったという。

脳の発達には興奮と抑制が必要であるが,脳が興奮すれば,抑制も起こるという。

 

だから,朝の読書のように,抑制をさせようとする発想とは違う。

まずワクワクどきどき体験で,脳を興奮させて,その後抑制(朝の読書など)をさせるようにすることで,前頭前野も発達すると云うことだ。

 

教研集会では,リズム構成の先生も,エイサーの先生も,終わった後は落ち着くようになると云っていた。

これには,違う意味もあったが。

 

なるほど。

風邪を引いたときに,身体を冷やすことで熱を下げるという考え方と,冷やさないで熱を放出させることで熱を下げるという二つの考え方がある。

 これも同じなのだろう。

でも,脳の発達を考えるという意味では,風邪の対応とは違う。

単にその場を落ち着かせるだけではないのだ。

 

僕は,野井さんのこの話はとてもいいと思った。

だから,朝の早いうちに体育をやりたいという学級が増えたという。

これもいいなあと思う。

その反面,体育が脳の興奮のためだけにあるとすると,それはちょっと困るなあ。

 

だから,朝の10分でも,ワクワクどきどき体験をさせて,そこから集中して授業に入るという考えを支持したい。

 

さて,話は変わるが,『体育科教育』2013年7月号に仲島正教さんの話が載っている。

仲島さんのエッセイは,同誌では2ヶ月に一度であるが,いつも面白く読ませていただいている。

この号には,上で展開した話を,やや角度を変えた形で書かれていることを思いだした。

「本を読んで甲子園へいこう!」というタイトルである。

これは,村上淳子さんという方の本(2009,ポプラ社)のタイトルでもある。

話の要約は以下の通り。

 

静岡の常葉橘高校の野球部の監督が,週5日の朝練の時間をなしにして,朝読書の時間(週4)と,村上さんの読み聞かせの時間(週1)にしたいと思った。

そこで,村上さんはOKを出すのだが,さてどんな本を?

最初は,『ゆずちゃん』という絵本,次が『ベロ出しチョンマ』,次が『さっちゃんのまほうのて』。

これは,甲子園の予選の前日まで続く。

 

前の年に予選でベスト16の常葉橘は,その年はノーシードでスタート。

ところが,なんと決勝進出。

残念ながら決勝で敗れたため,甲子園には行けず。

 

「野球と読書」の関係を,部員は「イメージトレーニング」,「理解から実践」つまり,「創造力・想像力」だと捉える。

監督の意図がどこにあったのかは,エッセイには書かれていない。

 

読み聞かせ(読書も)というのも,ワクワクどきどき体験になるのではないか。

ここからは勝手な想像だが,野球をやるというのが,もしかしたら高校生の彼らにとってやらされるルーティーンになっていて,ワクワクどきどきするものになっていなかったのではないか。

それが,読み聞かせによって,脳にある種の興奮をわかせて,彼らの脳の発達につながったのでは。

 

多くの野球部員にとっては,授業もまたワクワクどきどきするものになっていないと勝手に思ってしまう。

とすれば,彼らの脳の発達は,やはり「読み聞かせ(読書も)」によるところが大きい。

 

もしそうだとすれば,動的なワクワクどきどき体験と,静的なワクワクどきどき体験があることになる。

 

どちらを選択するのかの主体は,子どもたちであればいいのだろうが,それもなかなか難しいのだろう。

 

ただ,こういう話は何となく好きだ。

 

 

 

 

 

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