系統指導とグループ学習の統一7 バスケットボールの実践から
こんにちは。石田智巳です。
この系統指導とグループ学習の統一も7回目となりました。
とびとびになってしまったので,問題意識の確認をします。
みやぎ大会で大阪の中川孝子さんが,「水泳のグループ学習は,技能差があった方がうまくいく,しかし,ボール運動は,技能差だけではうまくいかず,認識を問題にしないといけないのではないか」ということを述べました。
このことを確認するため,学習集団の考え方や,小山実践,拙稿,泣いたオモちゃんの話,中村さんの実践,僕の実践などを取り上げてきました。
今日は,僕のバスケットボールの実践を紹介したいと思っています。
残念ながら,まとまった形で報告はしていないので,やや大雑把な紹介です。
この実践は,今では学生には「不均等発展」を教えるために用いています。
しかし,僕もやはり技能の問題ではなく,認識を問題にすべきだということを云っていたんだと思いました。
読んでもらえば,云っていることの意味がわかると思います。
では,どうぞ。
僕がこれから紹介する実践をやったのは,2005年の前期のことだ。
僕は体育同志会に入っていたが,自分の実践をやったのは今世紀に入ってからで,いわゆるスポーツ実習(かつての一般体育)を担当したのは,7~8年間でしかない。
今書いてみて驚いた。
少なっ⁉︎
でも,非常勤でも何年もやってきたし,専任になってからも,結構入れ込んだ実践もしてきたつもりだ。
そのうちの入れ込んだ実践の一つが,このバスケの実践である。
大学のバスケットボールの実践といっても,教育学部のことであり,バスケ部に入るような上手な子もいるし,「なんでバスケにしたの」という苦手な女の子もいる。
4月の第一週に種目の選択を行い,次の週に,身長,スポーツ経験を書いてもらい,シュート調査をやって,それでチーム決めをした。
そこでは,40人の学生を4つのチームに分けた。
そして,各班にAチームとBチームをつくって,兄弟チームとした。
兄弟チームとは,練習を一緒に行い,スコアをつけたり,休んだ学生の穴埋めを行ったりするチームのことだ。
授業の前半は,ハーフコートの3on3で,戦術行動を重視する。
僕は彼らに作戦を立てさせるときに,大きく二つの作戦を示した。
インサイドスクリーンとアウトサイドスクリーンの二つ。
説明が難しいので,具体的な中味は省略するが,いずれも味方が相手ディフェンスにスクリーンをかけてフリーになるというプレーだ。
苦手な女の子がフリーになってゴール下でパスを受けるには,それなりにうまい子がスクリナーになるしかないと思ったのだ。
あのときは佐藤学の「背伸びとジャンプの学び」を自分なりに考えて,誰にとっても難しいプレーを選択した。
岡山の有信実さんが,かつて「離れるプレー」と「くっつくプレー」という云い方をしていた。
離れるプレーが,よくいう「パス&ゴー」とか,サッカーで云う壁パスである。
くっつくプレーが,パスした後,ボールを持つ味方(とそのディフェンス)によっていくプレーだ。
後者の方が難しい。
1時間の授業は以下の通り。
まず,各グループで感想を読み合い,出席やボールやビブスの準備,準備運動,ディフェンスの動きの確認とオフェンスのパス回し。
このときに,Vカットというディフェンスを押すようにして戻ってパスをもらう練習をする。
スクリーンをやるときに,この動きが必要になるのだ。
これは,オフェンスの練習でもあり,ディフェンスの練習でもある。
それから,2対0のシュート。
班ごとの活動計画に従った練習を行い,最後にゲーム。
ここで紹介したいのは,まずは1班である。
AチームかBチームかは忘れたのであるが,どちらかのチームに,かなりうまい子が固まった。
男子2人と女子1人が経験者であり,しかもかなり上手かった。
そのチームの残りの2人は,かなり苦手な部類に入るであろう女子だった。
3on3のときは,基本的に上手い2人が出ていれば勝ててしまう。
結局,毎週1試合ずつするのだが,1班は3on3で4戦全勝であった。
チーム練習では,僕が示したプレーは全く無視だった。
「そんなプレーはできるはずがない」。
「苦手な子にあわせたバスケをする」。
しかし,明らかに触球数に差があり,差が出た次の週は,お情けパスでバランスを取っていた。
苦手な二人の女子学生は,4試合でシュートを1本ずつ。
ときどき感想文に朱を入れるが,ほおっておいた。
次に2班である。
2班の片方のチームには,バスケ経験者の学生が男女1人ずつ。
あとは,スポーツ経験者もいたが,全体におとなしく,正直に云えば,4つの班のなかで明らかにといえるほど,自力に劣るチームであった。
しかし,キャプテンのハヤサキくんを中心に,僕が示したプレーを繰り返し,繰り返し行う。
触球数も上手い学生が多く触ることがあるにせよ,極端に偏るということはなかったし,全員がシュートを打っていた。
しかし,自力で劣るために,3on3は1勝3敗であった。
でも,チームの雰囲気はよい。
オールコートでの5on5になった。
最初は,コートの使い方,とりわけ,相手コートでボールを奪ったときの切り返しについてやった。
ボールを奪ったチームは,「ボール運びはうまい子に任せて,自分のポジションにみんな行こう。」
奪われたチームは,「ボールを追いかけるよりも,ディフェンスのポジションに素速く戻ろう。」
速攻が中心になると,スクリーンプレーは出ない。
それと速攻が中心になると,走れる子のみが活躍することになる。
さて,1班である。
5on5の最初の試合は,8点対4点で2班に勝つ。
しかし,この日ボールに触ったのは得意な3人だけ。
後の二人は,シュートどころか触球数0だった。
反省したのか,次の週は全員がシュートを記録して,触球数もボール運び役の一人が多くなったが,残りの4人は6と7でバランスがいい。
しかし,この試合で1班は3班に引き分けたのだ。
はじめて勝ちを逃した。
それで,次の週は,また3人でゲームをしてしまった。
この日,ついに4班に負けてしまったのだ。
実は4班も1班と同じように,うまい子が中心になってやっていた。
しかし,その前の週に2班とやって勝っているのだが,そのときのキャプテンの感想文に次のことが書かれていた。
「個人プレーばっかりだったから,勝ってもちっとも嬉しくないのに,負けても嬉しそうにしているチームがある」。
そこで,この感想文を授業の始めにみんなの前で読んで,4班のキャプテンにどういうことかを尋ねてみた。
彼は,2班がキャプテンを中心に,チームプレーに徹しようとしていること,先生が示したプレーで全員がシュートを打っているので,負けても振り返りのときにもよかった点を褒めあっていたことをあげた。
それで,4班も1班と対戦するその日の練習は,スクリーンを使った練習を重視した。
1班は,練習で速攻の練習ばかりしている。
速攻要因は苦手な女の子二人。
でも,ロングパスは通らず。
結局,3人対5人でやっているようなものだった。
次の週は,1班と2班が対決する。
先週,はじめて負けた1班は,負けたことと同時に触球数とシュート数に偏りがあることを反省して,やはりお情けパスで全員シュートを打った。
しかし,結果的に,2班にも6点対8点で負けてしまった。
ここまで8試合のシュート決定数を見ると,1班は苦手な二人には0がついている。
2班は全員が複数シュートを決めている。
1班はトータルで5勝2敗1引き分け。
2班はトータルで2勝6敗。
しかし,誰が見ても2班の方がチームとして伸びたし,個人としても伸びた。
ところが,最後のリーグ戦では,修正してきた1班が勝ってしまうという結果になった。
「発展は均等に起きずに,時間差で不均等に起きる」。
これを不均等発展という(中村敏雄『体育のグループ学習』,創文企画,1998,96頁以下)。
発展には契機が必要で,これが起きるまでの大単元を組みたいということを,今の学生たちに授業で話す。
でも,この話も結局は,認識を問題にして戦術行動(技能)を身につけようとしたのが2班であり,2班はグループとしての質が上がったこと,そして,技能のみを問題にして認識をないがしろにした1班が,グループとしての質が上がらなかったと読むことができるのだ。
こういう話がたくさんあるとよいのだが。
そんなにいい話ばかりではなく,失敗実践もたくさんある。
うまくいった実践を紹介してほしい。
僕の授業で使いたいので。
これで,一応,系統指導とグループ学習の統一は終わりにします。