体育とスポーツの日記

                      石田智巳が体育・教育,そして運動文化論と運動文化実践(主にランニング)について書いています。

わかっちゃいるけどやめられね。

香山リカ『ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか』を読む。

こんにちは。石田智巳です。

 

昨日は、ガーミンのGPS時計が届いたという話を書きました。

今日もその続きを書こうと思ったのですが,ガーミンのことを書いたら,下の写真のように書いた記事にガーミンの広告が入りました。

これを見て,急遽、変更しました。

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ということで、今日は,香山リカソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか』(朝日新書,2014)を読んで考えたことを書きます。

では,どうぞ。

 

香山リカとは,リカちゃん人形でおなじみのリカちゃんの本名である。

どうしてその名前なのかは知らない。

しかし,彼女の本は何冊か読んだ。

そのなかでインパクトがあったのが,日韓ワールドカップのときの「プチナショ」について書かれた本と,小泉劇場を読み解いた『テレビの罠』,さらに勝間和代さんとの激論であった。

ハシズムを許すな!』にも書かれていた。

とりわけ,『テレビの罠』では,小泉さん(自民党選挙対策本部?)がターゲットにしたのが,ノンポリとインテリ,右と左の二つの軸でできる四象限のうち,ノンポリで右の層であった。

つまり,あんまり考えてはいないけど,とりあえず自民党を支持する層ということだ。

そこに向けて,小泉さんは、「いいね」「感動した」とワンフレーズのポリティックスを展開した,ということを香山さんは教えてくれた。

 

さて,今回,なんでこの本を読もうと思ったのか。

僕は基本的にはSNSには興味がなかった。

というか,変なことに巻き込まれるのが面倒だし,やらなくても困ってはいなかった。

学生が話し合いをLINEでしていて,プロセスがわからないまま決まったといってきたときには,苦言を呈したこともある。

月曜日の飲み会(ビアガーデン)も,当日の5時50分,つまり授業の終わりに知らされた。

苦言を呈すると,「先生も入れ」という。

さすがに,LINEは事件に巻き込まれると嫌だから(というか,未だそんな認識でしかない),やってはいない。

それでも,3月末からfacebookを,そして6月の下旬からブログを始めた。

だから読もうと思ったのだ。

 

彼女は,精神科のお医者さんである。

その立場から,SNSにはまってしまう人たち,さらに犯罪を犯してしまう人たちの病理を読み解く。

たとえば,ローソンのアイスを入れるケースに入って写真を撮ったバイトくんの事件。

その後,バカッターとかいわれ,続けざまに起こった。

彼らはそれが犯罪になるかどうかではなく,より意外性のあるネタを探して,そのような行為にたどり着いただけである。

ネタのために,放火した女性もいた。

それだけネットのなかでの自分自身の存在意義や,周りからの目に敏感であったということである。

そして,ネット依存の中高生は51万人いるだとか,女子高生の4割が一日6時間以上スマホを使っていることなどを紹介する。

この本では,こういった病理とその原因が描かれるが,これは単純にSNSが悪いとか,やる側のリテラシーの問題に単純には解消しない。

 

僕がこの本を読んで一番興味を持ったのは,「依存を狙う,『餌付け』ビジネスモデル」のところである。

彼ら彼女らが,依存するのは,彼らの意志の弱さだけでない。

そういうビジネスモデルにはまっているからだという。

 

冒頭に述べたように、先日、amazonでガーミンのGPS時計を買った。

このときは朝注文をして,夜にはもう手に届いた。

その後,関連商品が検索サイトに表示され、amazonからは毎日,おすすめ商品のメールが届く。

そして、冒頭の写真である。

 

このような状況を,アップル社の元シニアマネージャーだった松井博氏の『企業が「帝国化」する・・・』(アスキー新書)の一文を引用して語る。

「顧客をガッチリと自らの『仕組み』の中に取り込み,顧客側が『帝国』に依存し続けるしかないような構造を創り上げる」(松井氏)のであり,このような製品を作れる企業だけが帝国として成長できる。

そして,香山さんは「一方では成長戦略の名のもと,企業などに『もっとユーザーを”餌付け”して“依存症”に」と推奨し,一方では『子どものネット依存は深刻。早く対策を』と警告を発するというのは,まったく矛盾した話だ」という。

こういう矛盾した話はいくらでもあるが,それはあとで。

 

そして,facebookや140文字のツイッターなどによって,ユーザーは書く文章の分量が減っていくという。

代わりに写真に語らせたりする。

そのことが悪いわけではない。

ただ,LINEになると,「おはよう。今日は,いよいよ試合だね。これまでの練習の成果が出るように頑張ろう」という文章は,「おはよう」「今日は試合」「いつも通り頑張ろう」となるそうだ。

長文は読み手に失礼になるという。

 

さらに,「今何々をしている」とか,「○○のCDを買った」とかは書かれていても,感想や批評にあたる文章がなくなっているという。

つまり,「感覚や思考そのもののスリム化」が起こっているというのだ。

たしかに,僕も4月からiphoneに換えて,文章をこれまでよりもよく打つようになった。

 

しかし,文章を打つ機会や文字数が増えたが,定型文を探そうとするようになったと思う。

つまり,「あり」と打てば,自動で「がとう」か「ました」が出てそれをタップするようになる。

あるいは,その候補が出されたら,自分が打とうと思っていた文章をやめて,候補をたどっていきながら文章にしようとしていることに時々気づく。

 

さらに,今では画像を中心とした「インスタグラム」なるサイトもあるという。

安部首相は,5月に集団的自衛権の必要性を語る際に,赤ちゃんを抱く親などのイラストを用いたという。

香山さんは、画像で相手に印象づけるやり方を「ワンピクチャー政治」と呼んでいた。

国家の進路を決める大切な話を,情緒的に写真で印象づけるのはあざといやり方だ。

これは,小泉さんの「ワンフレーズ政治」をさらにすすめたものであり,基本的には見る側の解釈に委ねることになる。

 

バカッターも同じで,受けるためには我を忘れて,ネタをつくる。

そのネタ(画像)を相手に送りつけることで,「いいね」をゲットしに行く。

しかし,自分の主張が受けるかどうかは,相手次第となる。

そういう,「一か八か型コミュニケーション」が主流になりつつあるのだ。

 

香山さんは,このようなコミュニケーションの「一方向性」や「身体性の希薄な関係のさらなる後退」を憂い,「いま一度,確認だけはしておく必要があるのではないだろうか」と結ぶ。

これはかなり歯切れが悪い。

 

この流れは,もはや誰も止めることはできないのであろう。

グローバル社会における帝国がもたらす構造にどっぷりはまっているわけであり,解決策が簡単に見つかるわけではないからだ。

 

話変わるが,昨年の12月に,OECDPISAという学習到達度調査において,日本の子どもの学力が向上したという新聞記事があった(12月4日)。

2003年の同調査において,日本の順位が下がったことに対して,当時の中山文部科学大臣が「学力低下を認識すべき」と発言した。

それ以来の対策が、実を結んだともいえる。

とりわけ,読解力が低下していたため,文部科学省も国語力を重視する方向になったのである。

先に,「成長やグローバル戦略」を訴えて,でも,「SNSは危険だから注意しろ」という二つのメッセージを送ることは矛盾だと述べた。

それは「グローバル戦略」と「読解力」を同時に要求することの矛盾でもある。

難しい問題だ。

 

少なくとも,だから僕は「ブログ」で文字を沢山書く・・・、というわけではない。

 

 

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